スタートボタンを、また君と。
第2章:それでも生きる
機械に生かされる日々。それでも、わずかな「つながり」が現実へと引き戻す。
透析の説明は、淡々と進んだ。
週に三回。
一回、四時間。
血液を体の外に出して、機械で濾して、戻す。
なんだ、それ。
最初に思ったのは、それだった。
治すんじゃない。
維持するための仕組み。
つまり――一生、続く。
そしてもうひとつ。
やらなければ、尿毒素が回る。死ぬ。
選択肢は、なかった。
帰り道の記憶は、ほとんどない。
どうやって帰ったのかも、覚えていない。
気づいたら、家にいた。
座っていたのか、寝ていたのかも曖昧で、
時間だけがゆっくり、砂みたいに過ぎていった。
これから、どうすんだ。
答えは出なかった。
やりたいことは、あったはずだった。
でも、それは全部――健康な人間側の話だった。
もう、そっちには戻れない。
じゃあ、どうする。
……何も、出てこない。
透析が始まった。
腕に針が刺さる。
血がチューブを通って、外へ流れていく。
その光景を見て、最初に思ったのは――
ああ、俺は壊れたんだな。
体の一部が、機械に預けられている。
それを、ただ見ているしかない。
四時間。
長い時間だった。
周りにも、同じように横たわっている人たちがいた。
年齢も、性別も、バラバラ。
でも全員が、同じ管につながれている。
その光景を見て、思った。
俺たち、こんなんで生かされてて意味あるのか。
誰に向けた言葉でもない。
答えもない。
ただ、そう思った。
ある日、スタッフに声をかけられた。
「大丈夫ですか?」
よくある言葉だ。
誰にでも言う言葉。
でも、その日は違った。
「無理しないでくださいね」
「何かあったら言ってください」
「ちゃんと見てますからね」
言論は、特別じゃない。
でも――回数が、多かった。
気づけば何人ものスタッフが、
同じように声をかけてくれていた。
ああ……見られてるんだな。
監視じゃない。
気にかけられている。
その感覚が、少しだけ――
現実に戻してくれた。
だからといって、何かが変わったわけじゃない。
相変わらず、何もしたくなかった。
でも。
何かしないと。
という気持ちだけが、わずかに残っていた。
理由はわからない。
前向きでも、希望でもない。
ただ――
このまま終わるのも、なんか違う。
それだけだった。
俺は、もともとITサポートをやっていた。
人のトラブルを解決する。
困っている人を助ける。
それだけで、嬉しかった。
正直、それ以外に大した取り柄はないと思う。
でも、それだけは――できた。
この身体になっても、
誰かの役に立てることはあるんじゃないか。
そう思った。
大きなことじゃなくていい。
夢もいらない。
社会に、少しだけ引っかかっていたい。
誰かの役に立ちたい。
ただ、それだけだった。
だから、働くことにした。
障害者雇用。
条件は限られていた。
仕事内容も、選べるほどじゃない。
でも、それでよかった。
やりたい仕事じゃなくていい。
誰かの役に立てればいい。
それだけだった。
最初の日、思った。
場違いだな。
周りは普通に働いている。
普通に会話している。
普通に生きている。
自分だけが、
どこか別の世界から来たみたいだった。
椅子に座った。
それだけだった。
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